職場でもらった資料の中にあった「祝婚歌」という詩が目にとまった。
作者の吉野弘は、1926年山形県生まれの詩人。
この詩は、どうしても都合がつかずに出席できなかった姪御さんの結婚式に送られた詩だそうです。


祝 婚 歌 
           吉野 弘

ふたりが睦まじくいるためには
愚かでいるほうがいい
立派すぎないほうがいい
立派すぎることは
長持ちしないことだと
気づいているほうがいい

完璧をめざさない方がいい
完璧なんて不自然なことだと
うそぶいているほうがいい

ふたりのうちどちらかが
ふざけているほうがいい
ずっこけているほうがいい

互いに非難することがあっても
非難できる資格が自分にあったかどうか
あとで疑わしくなるほうがいい

正しいことを言うときは
少しひかえめにするほうがいい
正しいことを言うときは
相手を傷つけやすいものだと
気づいているほうがいい

立派でありたいとか
正しくありたいとかいう
無理な緊張には色目を使わず

ゆったり
ゆたかに
光を浴びているほうがいい

健康で風に吹かれながら
生きていることのなつかしさに
ふと胸が熱くなる
そんな日があってもいい

そして
なぜ胸が熱くなるのか
黙っていても
ふたりにはわかるものであってほしい